工学や物理学分野では複素数や複素正弦波は非常に良く使われていますが、これらの考え方に慣れていない人は「実数や普通のサイン波で十分なのに何故わざわざ複素数とか複素正弦波を使う必要があるのだろうか?」と疑問を持つかと思います。
ここでは簡単にその理由について説明します。
まず工学や物理学で使う計算式の中にはサイン波が多く含まれていることはみなさんご存知だと思います。
しかしサイン波は四則演算が苦手なので計算が複雑になりがちです。
※ 三角関数の公式の一覧を見てるだけで目が眩みそうです
一方、サイン波を複素正弦波の和に分解するとただの極形式または直交形式同士での計算に変わって四則演算が簡単に出来る様になるので、複雑な計算や証明でも楽に解けることが多いです。
では例として「sin 波の位相を90度進めると cos 波に変わる」というサイン波の性質の証明をしてみましょう。
式で書くと次の様になります。
この式をまともに証明しようとすると案外難しいです。
ところが複素正弦波を使って考えると以下の様にしてあっさり証明出来ます。
\begin{align*}
a \cdot \sin ( w \cdot t + \pi/2 )
&= \left \{ \frac{a}{2} \cdot \textrm{e}^{\{-j (\pi/2-\pi/2) \}} \right \} \cdot \textrm{e}^{\{-j \cdot w \cdot t \}}
+ \left \{ \frac{a}{2} \cdot \textrm{e}^{\{j (\pi/2-\pi/2) \}} \right \} \cdot \textrm{e}^{\{j \cdot w \cdot t \}} \\[10pt]
&= \left \{ \frac{a}{2} \cdot \textrm{e}^0 \right \} \cdot \textrm{e}^{\{-j \cdot w \cdot t \}}
+ \left \{ \frac{a}{2} \cdot \textrm{e}^0 \right \} \cdot \textrm{e}^{\{j \cdot w \cdot t \}} \\[10pt]
& = a \cdot \cos ( w \cdot t + 0 ) \\[10pt]
& = a \cdot \cos ( w \cdot t )
\end{align*}
もう一つ、今度は次の公式(半角公式)の証明を考えてみましょう。
\[ \{ a \cdot \cos ( w \cdot t + \phi ) \}^2 = \frac{a^2}{2} + \frac{ a^2 \cdot \cos ( 2w \cdot t + 2\phi )}{2} \]
これは単純な半角の公式ですが、やはりまともに証明しようとすると案外難しいです。
ところが複素正弦波を使って考えるとあっさり証明可能です。
また複素正弦波は自然対数を使った演算が容易であるというメリットもあります。
何故なら複素正弦波
という風に直交形式、つまりただの足し算の形に変わるためです。
上では例として計算が楽になるというメリットを挙げましたが、それ以外にも複素数と複素正弦波を使うことには様々なメリットがありますので自分で調べてみてください。