前ページで書いた様に
フーリエ変換は周期を無限大にした複素フーリエ係数
なのですが、フーリエ変換と複素フーリエ級数展開の間は意外に複雑な関係になっていて、もう少し真面目に書くと
・ ある周期的なアナログ信号の複素フーリエ係数に周期 $\textrm{T}$ [秒] をかけてから $\textrm{T} \rightarrow \infty$ とするとフーリエ変換に変わる。また周期的なアナログ信号は非周期的なアナログ信号に変わる。
・ もし周期 $\textrm{T}$ [秒] が有限のままなら、 ある周期的なアナログ信号の複素フーリエ係数に $\textrm{T}$ をかけてから sinc 関数を使って補完して作った信号は、元の信号の 1 周期分に相当する非周期的なアナログ信号のフーリエ変換である。
・ もし周期 $\textrm{T}$ [秒] が有限のままなら、ある非周期的な信号のフーリエ変換を $w_1 = 2\pi/\textrm{T}$ [rad/秒] 間隔でサンプリングしてから $\textrm{T}$ [秒] で割って作った信号は、元の信号を周期 $\textrm{T}$ [秒] で周期的にした信号の複素フーリエ係数である。
という関係になっています。
ここではそれらの関係について話します。
なお、実用的にはこのページに書いてある内容を気にする必要も無いので、興味がない人はこのページを飛ばしても問題ないです。
それと私は数学者ではないので数学的に変なところがあってもご容赦ください。
さて、フーリエ変換と複素フーリエ級数展開の関係を相関図にして示したのが図1です。
では図1に示した関係について、経路別に説明していきます。
最初のステップとして、周期的なアナログ信号 $f(t)$ に窓関数をかけて1周期分のアナログ信号 $f_1(t)$ を取り出します。
なお $f(t)$ としてあまり変な信号を仮定すると話がややこしくなるので、今回は工学で良く使われている信号(区分的に連続で滑らかな信号)を前提とします。
$f(t)$ を周期 $\textrm{T}$ [秒]、基本角周波数 $w_1 = 2\pi/\textrm{T}$ [rad/秒]の周期的かつ区分的に連続で滑らかな時間領域アナログ信号とする。
さらに矩形状の窓関数
\[ \textrm{rect}(t) = \begin{cases} 0 \ & (t \lt -\frac{\textrm{T}}{2}) \\[10pt] 1 \ & (-\frac{\textrm{T}}{2} \leq t \leq \frac{\textrm{T}}{2}) \\[10pt] 0 \ & (t \gt \frac{\textrm{T}}{2}) \end{cases} \]※ rect は rectangle(矩形) の略です。
を定義する。
$f(t)$ に $\textrm{rect}(t)$ をかけた信号
\[ f_1(t) = f(t) \cdot \textrm{rect}(t) = \begin{cases} 0 \ & (t \lt -\frac{\textrm{T}}{2}) \\[10pt] f(t) \ & (-\frac{\textrm{T}}{2} \leq t \leq \frac{\textrm{T}}{2}) \\[10pt] 0 \ & (t \gt \frac{\textrm{T}}{2}) \end{cases} \]は $f(t)$ から 1 周期分だけ切り出した長さ $\textrm{T}$ [秒]の非周期的かつ区分的に連続で滑らかな時間領域アナログ信号となる。
補足は特にありません。
(1)の逆経路です。
$f_1(t)$ を $ -\textrm{T}/2 \leq t \leq \textrm{T}/2$ 以外の時刻は 0 である長さ $\textrm{T}$ [秒]の非周期的かつ区分的に連続で滑らかな時間領域アナログ信号とする。
i を整数とし、$f_1(t)$ を $i \cdot \textrm{T}$ [秒] だけずらして無限に足し合わせた
\[ f(t) = \sum_{i=-\infty}^{\infty} \ f_1(t - i \cdot \textrm{T}) \]は周期 $\textrm{T}$ [秒]、基本角周波数 $w_1 = 2\pi/\textrm{T}$ [rad/秒] の周期的かつ区分的に連続で滑らかな時間領域アナログ信号となる。
こちらについても特に補足はありません。
ここで一旦周波数領域内に入ります。
周波数領域内での最初のステップとして、まず周期的なアナログ信号 $f(t)$ の複素フーリエ係数をくし型関数の係数としたインパルス列を作ります。
$f(t)$ を周期 $\textrm{T}$ [秒]、基本角周波数 $w_1 = 2\pi/\textrm{T}$ [rad/秒]の周期的かつ区分的に連続で滑らかな時間領域アナログ信号とする。
$f(t)$ の複素フーリエ係数を $\textrm{C}[k]$ とする。
さらに周波数領域内でサンプリング間隔を $w_1$ [rad/秒]とした くし型関数
\[ \textrm{comb}(w) = \sum_{k=-\infty}^{\infty} \delta(w-k\cdot w_1) \]※ comb はくしの英文です。
を定義する。
ここで $\delta(t)$ はデルタ関数である。
この時、複素フーリエ係数 $\textrm{C}[k]$ をくし型関数の係数として作ったインパルス列を以下の様に定義する。
\[ \textrm{F}_{imp}(w) = \sum_{k=-\infty}^{\infty} \ \textrm{T} \cdot \textrm{C}[k] \cdot \delta(w - k \cdot w_1 ) \]※ imp は impulse の略です。
$\textrm{T}$ をかけているのはゲイン調整のためです。
詳しくは(12)で説明しますが、インパルス列 $\textrm{F}_{imp}(w)$ は実は $f(t)/w_1$ のフーリエ変換になります。
(3)の逆経路です。
$f(t)$ を周期 $\textrm{T}$ [秒]、基本角周波数 $w_1 = 2\pi/\textrm{T}$ [rad/秒]の周期的かつ区分的に連続で滑らかな時間領域アナログ信号とする。
$f(t)$ の複素フーリエ係数を $\textrm{C}[k]$ とする。
また $\textrm{C}[k]$ をくし型関数の係数として作ったインパルス列を $\textrm{F}_{imp}(w)$ とする。
この時、$\textrm{C}[k]$ は $\textrm{F}_{imp}(w)$ をサンプリング間隔 $w_1$ [rad/秒]でサンプリングしたあと $\textrm{T} \cdot \delta(0)$ で割ることで生成出来る。
すなわち
$\textrm{T} \cdot \delta(0)$ で割るというところがちょっと分かりにくいのですが、要するに$\textrm{T}$とデルタ関数を取り除けというだけのことです。
次にインパルス列 $\textrm{F}_{imp}(w)$ に対して sinc 関数で補間を行って $\textrm{F}_1(w)$ という補間信号を作ります。
$f(t)$ を周期 $\textrm{T}$ [秒]、基本角周波数 $w_1 = 2\pi/\textrm{T}$ [rad/秒]の周期的かつ区分的に連続で滑らかな時間領域アナログ信号とする。
$f(t)$ の複素フーリエ係数を $\textrm{C}[k]$ とする。
また $\textrm{C}[k]$ をくし型関数の係数として作ったインパルス列を $\textrm{F}_{imp}(w)$ とする。
この時 $\textrm{F}_{imp}(w)$ に対してsinc 関数を使って補間して作ったアナログ信号を $\textrm{F}_1(w)$ と定義する。
すなわち
※ 式中の * は畳み込み積分です。
ここで sinc は以下で定義される非正規化 sinc 関数である。
\[ \textrm{sinc} \left ( \frac{ w \cdot \textrm{T} }{2} \right ) = \frac{ \sin \left ( \frac{ w \cdot \textrm{T} }{2} \right ) }{\left ( \frac{ w \cdot \textrm{T} }{2} \right )} \]
詳しくは (7)で説明しますが、$\textrm{F}_1(w)$ は実は $f_1(t)$ のフーリエ変換になります。
それではこの式を導出してみましょう。
(注) 積分と無限級数は普通は入れ替え出来ませんが、デルタ関数の無限級数に関しては ポアソン和公式により積分と交換可能です。
(5)の逆経路です。
$f(t)$ を周期 $\textrm{T}$ [秒]、基本角周波数 $w_1 = 2\pi/\textrm{T}$ [rad/秒]の周期的かつ区分的に連続で滑らかな時間領域アナログ信号とする。
$f(t)$ の複素フーリエ係数を $\textrm{C}[k]$ とする。
また $\textrm{C}[k]$ をくし型関数の係数として作ったインパルス列を $\textrm{F}_{imp}(w)$ とする。
さらに $\textrm{F}_{imp}(w)$ に対してsinc 関数を使って補間して作ったアナログ信号を $\textrm{F}_1(w)$ とする。
この時、$\textrm{F}_{imp}(w)$ は $\textrm{F}_1(w)$ に (3) で定義したくし型関数 $\textrm{comb}(w)$ をかけることで生成出来る。
すなわち
ここからさらに
\begin{align*} \textrm{C}[k] &= \frac{\textrm{F}_{imp}(k\cdot w_1)}{\textrm{T} \cdot \delta(0) } \\[10pt] &= \frac{1}{\textrm{T}} \cdot \textrm{F}_1 ( k \cdot w_1 ) \end{align*}が言える。
要するに
$\textrm{C}[k]$ は $\textrm{F}_1(w)$ をサンプリング間隔 $w_1$ [rad/秒]おきにサンプリングしてから $\textrm{T}$で割って作ったディジタル信号列
ということになります。
ここでようやくフーリエ変換の式が出てきます。
ただこの時点では $\textrm{T}$ [秒]はまだ有限の値であることに注意して下さい。
$f(t)$ を周期 $\textrm{T}$ [秒]、基本角周波数 $w_1 = 2\pi/\textrm{T}$ [rad/秒]の周期的かつ区分的に連続で滑らかな時間領域アナログ信号とする。
また $f_1(t)$ を $f(t)$ から 1 周期分だけ切り出した長さ $\textrm{T}$ [秒]の非周期的かつ区分的に連続で滑らかな時間領域アナログ信号とする。
$f(t)$ の複素フーリエ係数を $\textrm{C}[k]$ とする。
また $\textrm{C}[k]$ をくし型関数の係数として作ったインパルス列を $\textrm{F}_{imp}(w)$ とする。
さらに $\textrm{F}_{imp}(w)$ に対してsinc 関数を使って補間して作ったアナログ信号を $\textrm{F}_1(w)$ とする。
$\textrm{F}_1(w)$ は $f_1(t)$ から次の式を用いて求められる。
\[ \textrm{F}_1(w) = \int_{-\textrm{T}/2}^{\textrm{T}/2} \left \{ f_1(t) \cdot \textrm{e}^{\{-j \cdot w \cdot t \}} \right \} \ \textrm{d}t \]
要するにフーリエ変換の定義式そのものです。
この積分式は(5)で出てきた式の続きを計算することで導出することが出来ますが、その前に、まず $\textrm{e}^{\{-j \cdot w \cdot t \}}$ を周期 $\textrm{T}$ [秒] の周期的な信号とみなしてその複素フーリエ係数を計算します。
よって
\begin{align*} \textrm{F}_1(w) &= \textrm{F}_{imp}(w) * \textrm{sinc} \left ( \frac{ w \cdot \textrm{T} }{2} \right ) \\[10pt] &= \textrm{T} \cdot \sum_{k=-\infty}^{\infty} \textrm{C}[k] \cdot \textrm{sinc} \left ( \frac{ (w - k \cdot w_1) \cdot \textrm{T} }{2} \right ) \\[10pt] &= \textrm{T} \cdot \sum_{k=-\infty}^{\infty} \textrm{C}[k] \cdot \frac{1}{\textrm{T}} \cdot \int_{-\textrm{T}/2}^{\textrm{T}/2} \left \{ \textrm{e}^{\{-j \cdot w \cdot t \}} \cdot \textrm{e}^{\{-j \cdot (-k) \cdot w_1 \cdot t \}} \right \} \ \textrm{d}t \\[10pt] (\text{積分と総和を入れ替え(注)}) &= \int_{-\textrm{T}/2}^{\textrm{T}/2} \left \{ \sum_{k=-\infty}^{\infty} \textrm{C}[k] \cdot \textrm{e}^{\{j \cdot k \cdot w_1 \cdot t \}} \right \} \cdot \textrm{e}^{\{-j \cdot w \cdot t \}} \ \textrm{d}t \\[10pt] &= \int_{-\textrm{T}/2}^{\textrm{T}/2} \left \{ f(t) \cdot \textrm{e}^{\{-j \cdot w \cdot t \}} \right \} \ \textrm{d}t \\[10pt] &= \int_{-\textrm{T}/2}^{\textrm{T}/2} \left \{ f_1(t) \cdot \textrm{e}^{\{-j \cdot w \cdot t \}} \right \} \ \textrm{d}t \\[10pt] \end{align*}(注) 積分と無限級数は普通は入れ替え出来ませんが、今回は $f(t)$ が区分的に連続で滑らかであるという仮定をしていて $f(t)$ の複素フーリエ級数展開が一様収束することから交換可能になっています。
ここで参考までに簡単な例を示しましょう。
まず
とします。
今回導出した積分計算をして $\textrm{F}_1(w)$ を求めると(計算は長いので省略)
となります。
一方、$f(t)$ の複素フーリエ係数はオイラー公式より
\[ \begin{cases} \textrm{C}[1] = \frac{1}{2j} \\[10pt] \textrm{C}[-1] = -\frac{1}{2j} \\[10pt] \textrm{C}[k] = 0 \ \ (k \ne \pm1) \end{cases} \]ですので、確かに(5)で示した
\[ \textrm{F}_1(w) = \textrm{T} \cdot \textrm{C}[1] \cdot \textrm{sinc} \frac{ (w - w_1) \cdot \textrm{T} }{2} + \textrm{T} \cdot \textrm{C}[-1] \cdot \textrm{sinc} \frac{ (w + w_1) \cdot \textrm{T} }{2} \]と同じ形となっていることが分かります。
(7)の逆経路です。
$f(t)$ を周期 $\textrm{T}$ [秒]、基本角周波数 $w_1 = 2\pi/\textrm{T}$ [rad/秒]の周期的かつ区分的に連続で滑らかな時間領域アナログ信号とする。
また $f_1(t)$ を $f(t)$ から 1 周期分だけ切り出した長さ $\textrm{T}$ [秒]の非周期的かつ区分的に連続で滑らかな時間領域アナログ信号とする。
$f(t)$ の複素フーリエ係数を $\textrm{C}[k]$ とする。
また $\textrm{C}[k]$ をくし型関数の係数として作ったインパルス列を $\textrm{F}_{imp}(w)$ とする。
さらに $\textrm{F}_{imp}(w)$ に対してsinc 関数を使って補間して作ったアナログ信号を $\textrm{F}_1(w)$ とする。
$f_1(t)$ は $\textrm{F}_1(w)$ から次の式を用いて求められる。
\begin{align*} f_1(t) = \frac{1}{2\pi} \int_{-\infty}^{\infty} \left \{ \textrm{F}_1(w) \cdot \textrm{e}^{\{j \cdot w \cdot t \}} \right \} \ \textrm{d}w \end{align*}
見て分かるように逆フーリエ変換の定義式になっています。
一応証明してみましょう。
ではいよいよフーリエ変換を導出します。
と言っても話は単純で、(7)の式に対して $\textrm{T} \rightarrow \infty$ とした時の $\textrm{F}_1(w)$ がフーリエ変換になります。
絶対可積分で非周期的かつ区分的に連続で滑らかなアナログ信号 $f(t)$ のフーリエ変換は以下で与えられる。
\[ \textrm{F}(w) = \int_{-\infty}^{\infty} \left \{ f(t) \cdot \textrm{e}^{\{-j \cdot w \cdot t \}} \right \} \ \textrm{d}t \]なお $f(t)$ が絶対可積分でない場合のフーリエ変換については次のページで取り上げます。
つぎは逆フーリエ変換です。
こちらも話は単純で、(8)の $\textrm{F}_1(w)$ を $\textrm{F}(w)$ に置き換えるだけです。
絶対可積分で非周期的かつ区分的に連続で滑らかなアナログ信号 $f(t)$ のフーリエ変換のフーリエ変換を $\textrm{F}(w)$ とする。
$\textrm{F}(w)$ の逆フーリエ変換は以下で与えられる。
なお $f(t)$ が絶対可積分でない場合の逆フーリエ変換については次のページで取り上げます。
フーリエ変換と逆フーリエ変換を導出出来たので、少し前に戻って(11)の経路について説明します。
$f(t)$ を周期 $\textrm{T}$ [秒]、基本角周波数 $w_1 = 2\pi/\textrm{T}$ [rad/秒]の周期的かつ区分的に連続で滑らかな時間領域アナログ信号とする。
$f(t)$ の複素フーリエ係数を $\textrm{C}[k]$ とする。
また $\textrm{C}[k]$ をくし型関数の係数として作ったインパルス列を $\textrm{F}_{imp}(w)$ とする。
この時 $ w_1 \cdot \textrm{F}_{imp}(w)$ を逆フーリエ変換すると $f(t)$ になる。
すなわち
証明は以下の通りです。
\begin{align*} \frac{1}{2\pi} \int_{-\infty}^{\infty} \left \{ w_1 \cdot \textrm{F}_{imp}(w) \cdot \textrm{e}^{\{j \cdot w \cdot t \}} \right \} \ \textrm{d}w &= \int_{-\infty}^{\infty} \left \{ \frac{w_1 \cdot \textrm{T}}{2\pi} \cdot \sum_{k=-\infty}^{\infty} \ \textrm{C}[k] \cdot \delta(w - k \cdot w_1 ) \cdot \textrm{e}^{\{j \cdot w \cdot t \}} \right \} \ \textrm{d}w \\[10pt] (w_1 = 2\pi/\textrm{T} \text{より}) &= \int_{-\infty}^{\infty} \left \{ \sum_{k=-\infty}^{\infty} \ \textrm{C}[k] \cdot \delta(w - k \cdot w_1 ) \cdot \textrm{e}^{\{j \cdot w \cdot t \}} \right \} \ \textrm{d}w \\[10pt] (\text{積分と総和を入れ替え(注)}) &= \sum_{k=-\infty}^{\infty} \left [ \textrm{C}[k] \cdot \int_{-\infty}^{\infty} \left \{ \delta(w - k \cdot w_1 ) \cdot \textrm{e}^{\{j \cdot w \cdot t \}} \right \} \ \textrm{d}w \right ] \\[10pt] (\text{デルタ関数の性質より}) &= \sum_{k=-\infty}^{\infty} \left \{ \textrm{C}[k] \cdot \textrm{e}^{\{j \cdot k \cdot w_1 \cdot t \}} \right \} \\[10pt] &= f(t) \end{align*}(注) 積分と無限級数は普通は入れ替え出来ませんが、デルタ関数の無限級数に関しては ポアソン和公式により積分と交換可能です。
(11)から即座に次の事が言えます。
$f(t)$ を周期 $\textrm{T}$ [秒]、基本角周波数 $w_1 = 2\pi/\textrm{T}$ [rad/秒]の周期的かつ区分的に連続で滑らかな時間領域アナログ信号とする。
$f(t)$ の複素フーリエ係数を $\textrm{C}[k]$ とする。
また $\textrm{C}[k]$ をくし型関数の係数として作ったインパルス列を $\textrm{F}_{imp}(w)$ とする。
この時 $f(t)/w_1$ をフーリエ変換すると $\textrm{F}_{imp}(w)$ になる。
すなわち
このことから、
周期的なアナログ信号のフーリエ変換はインパルス列になる
という事が分かります。
この時点では $f(t)$ ではなく、$f(t)$ から 1 周期分だけ取り出した $f_1(t)$ に対して $\textrm{T}$ を無限大にすることでフーリエ変換を導出しています。
つまり
周期 $\textrm{T}$ を無限大とした時に周期的な $f(t)$ が本当に非周期的なアナログ信号に変わるのか?
という大問題がまだ残っていますが、結論は次の通りになります。
$f(t)$ を周期 $\textrm{T}$ [秒]、基本角周波数 $w_1 = 2\pi/\textrm{T}$ [rad/秒]の周期的かつ区分的に連続で滑らかな時間領域アナログ信号とする。
$\textrm{T} \rightarrow \infty$ としたとき $f(t)$ は周期性を失って非周期的な時間領域アナログ信号に変わる。
なお $\textrm{T}$ が有限の場合はいくら $\textrm{T}$ を大きくしても非周期的にはなりませんのでご注意下さい。
ちょっと不思議な感じがしますが、このことは次の様にして証明されます。
まず周期的な $f(t)$ の複素フーリエ級数展開は(6)から
と変形できます。
ここで sinc 補間により生成された $\textrm{F}_1(w)$ は実数値連続函数であり、$\textrm{T} \rightarrow \infty$ の時 $w_1 \rightarrow 0$ 、$\textrm{F}_1(w) \rightarrow \textrm{F}(w)$なので、最後の級数はリーマン和となります。
よって総和をリーマン積分(普通の積分)に置き換えて
この様に $\textrm{T} \rightarrow \infty$ の時に $f(t)$ は $f_1(t)$ と一致し、周期性が失われるため $f(t)$ は非周期的な信号に変わります。
(13)から次の事も言えます。
$f(t)$ を周期 $\textrm{T}$ [秒]、基本角周波数 $w_1 = 2\pi/\textrm{T}$ [rad/秒]の周期的かつ区分的に連続で滑らかな時間領域アナログ信号とする。
$f(t)$ の複素フーリエ係数を $\textrm{C}[k]$ とする。
$\textrm{T} \rightarrow \infty$ としたとき $\textrm{T} \cdot \textrm{C}[k]$ はフーリエ変換 $\textrm{F}(w)$ に変わる。
やはり $\textrm{T}$ が有限の場合はいくら $\textrm{T}$ を大きくしてもフーリエ変換には変わりませんのでご注意下さい。
$\textrm{T}$ が有限の場合は(5)の様に $\textrm{T} \cdot \textrm{C}[k]$ を sinc 関数で補完してフーリエ変換にする必要があります。
その場合のフーリエ変換は周期的な信号 $f(t)$ の 1 周期分の非周期的な信号 $f_1(t)$ のフーリエ変換となります。