最も基本的な FIR フィルタは「(単純)移動平均フィルタ(Moving Average Filter)」です。

この移動平均フィルタは現在時刻を移動させながら過去 $\textrm{L}$ 時刻分の入力信号値の単純平均を出力するというだけのフィルタで、出力は次の計算で求められます。

移動平均フィルタの出力 \begin{align*} y[i] & = \frac{ 1 }{\textrm{L}}\cdot \sum_{n=0}^{\textrm{L-1}} x[i-n] \\ & = \sum_{n=0}^{ \textrm{L-1}} \left \{ \frac{1}{\textrm{L}} \cdot x[i-n] \right \} \end{align*}

この式は前ページで示した FIR フィルタの畳込み演算そのものですので、インパルス応答は次の様になります。

(単純)移動平均フィルタのインパルス応答

正整数 $\textrm{L}$ をフィルタ長としたとき、移動平均フィルタのインパルス応答は次の式で表される。

\begin{align*} h[i] = \{ \underbrace{\frac{1}{\textrm{L}}, \cdots, \frac{1}{\textrm{L}}}_{\textrm{L}}, 0, 0, \cdots \} \end{align*}

伝達関数はインパルス応答をZ 変換して次の様になります。

移動平均フィルタの伝達関数

 

\begin{align*} \textrm{H}(z) = \sum_{i=0}^{\textrm{L}-1} \{ \frac{1}{\textrm{L}} \cdot z^{-i} \} \end{align*}

移動平均フィルタの周波数特性は次のようになります。
ただし式を簡単にするために今回は $\textrm{L}$ は奇数のみとしました。

※ この式の求め方は結構難しいので次ページでじっくりと説明します。

移動平均フィルタの周波数特性

フィルタ長 $\textrm{L}$ を奇数とし、$\textrm{C} = (\textrm{L}-1)/2$ とする

\begin{align*} \textrm{H}(w) = \left ( \frac{1}{\textrm{L}} + \sum_{i = 1}^{\textrm{C}} \left \{ 2 \cdot \frac{1}{\textrm{L}} \cdot \cos (i\cdot w \cdot \tau ) \right \} \right ) \cdot \textrm{e}^{ -j \cdot w \cdot \textrm{C} \cdot \tau } \end{align*}

グラフを描くと分かりますが移動平均フィルタの周波数特性はローパス特性になります。
ただしフィルタ長 $\textrm{L}$ が短いと緩慢な減衰特性になるので、高周波ノイズをきちんと取り除きたい場合はある程度の長さにしないといけません。