フーリエの定理複素正弦波を使って書き直すと次のような級数になります。
この式を $f(t)$ の複素フーリエ級数展開といいます。

何故フーリエの定理からこの式が出てくるのかについては次のページで説明します。

定義: 複素フーリエ級数展開

$f(t)$ を周期 $\textrm{T}$ [秒]、基本角周波数 $w_1 = 2\pi/\textrm{T}$ [rad/秒]の周期的かつ区分的に連続で滑らかな時間領域アナログ信号とする。

また $\textrm{C}[k]$ を $f(t)$ の $k$ 番目の複素フーリエ係数とする。

※ $\textrm{C}[k]$ の計算方法についてはこのすぐ下で説明します。

時刻 $t$ において $f(t)$ が連続ならば、以下の無限級数が収束して複素フーリエ級数展開という。

\begin{align*} f(t) = \sum_{k = -\infty}^{\infty} \left \{ \textrm{C}[k] \cdot \textrm{e}^{\{j \cdot k \cdot w_1 \cdot t \}} \right \} \end{align*}

なお「区分的に連続で滑らかである」信号とは

という意味で、(例外はありますけど)工学で良く扱う信号は大体その様な性質を持っています。

一方、もし $f(t)$ に不連続な点が含まれるときは次の事が言えます。

定義: 不連続点における複素フーリエ級数展開

時刻 $t$ において $f(t)$ が不連続ならば、複素フーリエ級数展開は右極限 $f(t+0)$ と 左極限 $f(t-0)$ の平均に収束する。
つまり

\begin{align*} \frac{ f(t+0) + f(t-0) }{2} = \sum_{k = -\infty}^{\infty} \left \{ \textrm{C}[k] \cdot \textrm{e}^{\{j \cdot k \cdot w_1 \cdot t \}} \right \} \end{align*}

さて上の式に出てきた複素フーリエ係数 $\textrm{C}[k]$ は次の式で求められます。
この複素フーリエ係数 $\textrm{C}[k]$ の計算式は直交基底展開という理論から導かれますが、今回のアクティビティでは触れませんのでもし興味のある人は自分で調べて下さい。

複素フーリエ係数 $\textrm{C}[k]$ の定義 (その1)

$f(t)$ を周期 $\textrm{T}$ [秒]、基本角周波数 $w_1 = 2\pi/\textrm{T}$ [rad/秒]の周期的かつ区分的に連続で滑らかな時間領域アナログ信号とする。
$k$ を任意の整数としたとき、以下の積分を $k$ 番目の複素フーリエ係数という。

\[ \textrm{C}[k] = \frac{1}{\textrm{T}} \int_{-\textrm{T}/2}^{\textrm{T}/2} \left \{ f(t) \cdot \textrm{e}^{\{-j \cdot k \cdot w_1 \cdot t \}} \right \} \textrm{dt} \]

なお積分の前についている $1/\textrm{T}$ を「正規化パラメータ」と言います。
正規化パラメータは振幅スペクトルのスケールを調整するパラメータであり、目的に応じて任意に設定しても良い値です。
そのため、このアクティビティでは $1/\textrm{T}$ としていますが文献によっては正規化パラメータの値が異なりますので注意してください。

また $f(t)$ は周期的な信号でしたので

\begin{align*} \textrm{C}[k] &= \frac{1}{\textrm{T}} \int_{-\textrm{T}/2}^{\textrm{T}/2} \left \{ f(t) \cdot \textrm{e}^{\{-j \cdot k \cdot w_1 \cdot t \}} \right \} \textrm{dt} \\[5pt] &= \frac{1}{\textrm{T}} \int_{-\textrm{T}/2}^{0} \left \{ f(t) \cdot \textrm{e}^{\{-j \cdot k \cdot w_1 \cdot t \}} \right \} \textrm{dt} + \frac{1}{\textrm{T}} \int_{0}^{\textrm{T}/2} \left \{ f(t) \cdot \textrm{e}^{\{-j \cdot k \cdot w_1 \cdot t \}} \right \} \textrm{dt} \\[5pt] &= \frac{1}{\textrm{T}} \int_{\textrm{T}/2}^{\textrm{T}} \left \{ f(t+\textrm{T}) \cdot \textrm{e}^{\{-j \cdot k \cdot w_1 \cdot (t+\textrm{T}) \}} \right \} \textrm{dt} + \frac{1}{\textrm{T}} \int_{0}^{\textrm{T}/2} \left \{ f(t) \cdot \textrm{e}^{\{-j \cdot k \cdot w_1 \cdot t \}} \right \} \textrm{dt} \\[5pt] (f(t+\textrm{T}) = f(t)\ \text{および}\ w_1\cdot \textrm{T} = 2\pi\ \text{より} ) &= \frac{1}{\textrm{T}} \int_{\textrm{T}/2}^{\textrm{T}} \left \{ f(t) \cdot \textrm{e}^{\{-j \cdot k \cdot w_1 \cdot t \}} \right \} \textrm{dt} + \frac{1}{\textrm{T}} \int_{0}^{\textrm{T}/2} \left \{ f(t) \cdot \textrm{e}^{\{-j \cdot k \cdot w_1 \cdot t \}} \right \} \textrm{dt} \\[5pt] &= \frac{1}{\textrm{T}} \int_{0}^{\textrm{T}} \left \{ f(t) \cdot \textrm{e}^{\{-j \cdot k \cdot w_1 \cdot t \}} \right \} \textrm{dt} \end{align*}

となりますので、複素フーリエ係数の定義を次の様に書くことも出来ます。

複素フーリエ係数 $\textrm{C}[k]$ の定義 (その2)

※ 定義その1との違いは積分範囲のみ

\[ \textrm{C}[k] = \frac{1}{\textrm{T}} \int_{0}^{\textrm{T}} \left \{ f(t) \cdot \textrm{e}^{\{-j \cdot k \cdot w_1 \cdot t \}} \right \} \textrm{dt} \]

ところで上で示した $\textrm{C}[k]$ の定義から $\textrm{C}[k]$ と $\textrm{C}[-k]$ は複素共役関係となっています。
つまり

\begin{align*} \textrm{C}[k] = \textrm{C}^{*}[-k] \end{align*}

あるいは

\begin{align*} \textrm{C}^{*}[k] = \textrm{C}[-k] \end{align*}

が成り立ちますので、実は $k=0,1,2,\cdots$ に対応する複素フーリエ係数さえ 求めれば $k=-1,-2,\cdots$ に対応する複素フーリエ係数は求める必要がありません。

また、$f(t)$ が偶関数の場合は $f(t) = f(-t)$ が成り立つので、

\begin{align*} \textrm{C}[k] &= \frac{1}{\textrm{T}} \int_{-\textrm{T}/2}^{\textrm{T}/2} \left \{ f(t) \cdot \textrm{e}^{\{-j \cdot k \cdot w_1 \cdot t \}} \right \} \textrm{dt} \\[5pt] &= \frac{1}{\textrm{T}} \int_{-\textrm{T}/2}^{0} \left \{ f(t) \cdot \textrm{e}^{\{-j \cdot k \cdot w_1 \cdot t \}} \right \} \textrm{dt} + \frac{1}{\textrm{T}} \int_{0}^{\textrm{T}/2} \left \{ f(t) \cdot \textrm{e}^{\{-j \cdot k \cdot w_1 \cdot t \}} \right \} \textrm{dt} \\[5pt] &= \frac{1}{\textrm{T}} \int_{0}^{\textrm{T}/2} \left \{ f(-t) \cdot \textrm{e}^{\{j \cdot k \cdot w_1 \cdot t \}} \right \} \textrm{dt} + \frac{1}{\textrm{T}} \int_{0}^{\textrm{T}/2} \left \{ f(t) \cdot \textrm{e}^{\{-j \cdot k \cdot w_1 \cdot t \}} \right \} \textrm{dt} \\[5pt] (f(t) = f(-t)\ \text{より}) &= \frac{1}{\textrm{T}} \int_{0}^{\textrm{T}/2} \left \{ f(t) \cdot \left [ \textrm{e}^{\{j \cdot k \cdot w_1 \cdot t \}} +\textrm{e}^{\{-j \cdot k \cdot w_1 \cdot t \}} \right ] \right \} \textrm{dt} \\[5pt] (\text{オイラー公式より}) &= \frac{2}{\textrm{T}} \int_{0}^{\textrm{T}/2} \left \{ f(t) \cdot \cos(k \cdot w_1 \cdot t) \right \} \textrm{dt} \\[5pt] \end{align*}

と、虚数成分が消えてただの実積分になり、しかも

\begin{align*} \textrm{C}[-k] &= \frac{2}{\textrm{T}} \int_{0}^{\textrm{T}/2} \left \{ f(t) \cdot \cos(-k \cdot w_1 \cdot t) \right \} \textrm{dt} \\[5pt] &= \frac{2}{\textrm{T}} \int_{0}^{\textrm{T}/2} \left \{ f(t) \cdot \cos(k \cdot w_1 \cdot t) \right \} \textrm{dt} \\[5pt] &= \textrm{C}[k] \end{align*}

ですので、$\textrm{C}[k]$は複素数ではなく実数の定数、かつ偶関数になります